はじめに
私が特に日本の食文化の豊かさ、奥深さを感じたあるものは「お弁当」なのである。日本では弁当は昔から広く使用されてきた。日本の女性なら誰でも、一度はお弁当を作った経験があるかもしれない。その時、どんなことを考えながら、お弁当箱に詰めたのか、栄養のバランスなのか、彩りの良さなのか、ご飯とおかずの割合なのか、おそらく、おかずを作る段階とお弁当箱に詰める段階で、自然にバランスやら色合いやらを考えていたと思う。あるいは、フタをあける人の喜ぶ顔を思い浮かべていたかもしれない。
そんな、日本人にとってはごく普通に作っているお弁当が、外国の人の目には、とてもスゴイものにうつったらしいのである。
お弁当は現代の食事形態の一つとして日本人の暮らしに深く根付き、彼らの身体をつくる「食事」としても重要な役割を担っている。また、今はお弁当は栄養補給や身体維持といった物理的な側面だけではなく、蓋を開けたときの美しさ、一緒に食べた仲間との楽しい思い出、作り手への感謝の気持ちなど、精神面での豊かさをも育んでくれるものである。弁当を通じて、日本社会、日本文化の中に「遊び心」がどのように育ってきたのかを知ることもできる。
今では日本人の生活様式はすっかり近代化、西欧化されている。それにもかかわらずこのような食様式が、なぜ、どのようにして今日まで絶えることなく引き継がれてきたのか、なぜほとんどの婦人雑誌がさまざまな形で弁当の作り方をのせているのか、ということに本論文で私は検討してみたいと思う。