要旨:堀辰雄(1904-1953)東京生まれ、「大正鬼才」として知られる芥川龍之介 に師事し、日本の昭和時代の心理主義の代表的な作家である。彼は西欧の心理 主義文学の影響を受け、人物の心理描写に長じ、特に死亡に直面している人間 の繊細な内的感受性の描写に誇りをもっていた。
本稿は、堀辰雄の代表作―『風立ちぬ』を中心にして、彼の生涯からその 死生観の発生の原因を分析し、そして全小説に貫いていた主人公の心理変化を 通して、堀本人の死生観の変化をうかがい知ることができると考える。一方で は、それを堀辰雄の後期作品、『菜穂子』に見られる死生観と比較して、堀の 晩年までの死生観はどんな本質的な変遷があったかを解明してみた。また、恩 師の芥川の死生観との比較を通じて堀の死生観の特徴をまとめてみた。
本稿は以上の研究により、次のような観点を明確にした:一、親友が次々
と亡くなってしまい、自身も長患いでベッドから離れがたいという実体験は、 堀辰雄の独特な死生観の発生する現実的な原因である。二、『風立ちぬ』では、
堀の死生観は世間を離れる「純粋時空」において確立されたもので、生命は無 限の時間とともに永遠に続くことであり、ここから作者の「永生」の観点が見 られる。三、堀の死生観は、空想に基づいた幻の「生」にふける➝現実の「生」 に注目する➝現実の「死」から逃避する➝肉体の「死」を超越し、新たな「生」
に到達するという過程を遂げた。四、堀の死生観の形成は「生」、「死」、「愛」 という三者の関係を調和することによって実現された。五、夢とロマンを捨て
てまでも、隠忍の「生」を続けようということは堀辰雄晩年の死生観である。
キーワード:堀辰雄 死生観 愛 純粋時空 現実 新生
目次
要旨
中文摘要
はじめに -1
1-死生観についての先行研究 - 1
1.1 日本人の死生観について -3
1.2 堀辰雄の死生観について -4
2.『風立ちぬ』の創作背景 -5
2.1堀辰雄の少年時代 -5
2.2芥川龍之介と友人からの影響 -6
2.2.1 『聖家族』――-偲びと奮起 -7
2.3 恋人との出会いと死別 -10
2.3.1 恋愛経験をもとにした『風立ちぬ』の昇華 -10
3.『風立ちぬ』における生と死と愛の分析 -12
3.1恋人同士の愛情と死生 - 12
3.2俗世間を離れた純愛 -14
3.2.1『風立ちぬ』における「純粋時空」と生の意識 -14
3.3堀辰雄の精神の軌跡――幻想の「生」から現実の「生」まで .. 16
3.3.1「特殊の人間性」の出現 -17
3.3.2「死」を逃避することによる惹かれた隔たり - 18
3.4死を直面し、新しい人生へ -21
3.4.1リルケの「鎮魂曲」の媒介 - 22
3.4.2「愛」と「生の幸福」の昇華 -23
4堀辰雄の死生観の発展と変化 - 25
4.1『風立ちぬ』から『菜穂子』まで - 25
4.1.1二つの作品の共通点 -26
4.1.2二つの作品の相違点 -27
5.芥川龍之介と堀辰雄の死生観の対比 - 29
5.1『羅生門』と厭世主義 -29
5.2『地獄変』においての芸術の殉教者 -30
おわりに -33
参考文献 -34
謝-辞 -35