要旨:武士道は新瀬戸稲造が「武士道」で指摘しているように、日本人の最重要な民族的アイデンティティーの一つといえる。そして、その核心は、独立自尊、自己矜持、 独立不羈、自主不屈のなどの精神の集まりだと定められている。武士道は日本人が、生死にシビアに問われる長い戦乱期や平時での闘争、戦闘の過程で培ってきた倫理、規範、求道の道、処世訓がまとめられ、概括されたもの、概念と言って良い。
これは、封建時代の軍人に一般にいえる事であろう。日本では、平安時代から発し、鎌倉、室町、戦国、江戸、幕末、維新へと発達、変遷してきた武士階級の生き方、倫理として「武士道」は存在した。これは、必ずしも武士階級に限らず、町民、農民、果ては貴族階級すら波及し、日本人全体のモラル、文化の枢要部に位置することとなった。
本稿では10世紀から12世紀において成立した国衙軍制の下での武士の発生を背景に古代末期から中世初頭にかけて日本の武士の姿を歴史的立場で描き、当時の国衙軍制の下での武士の発生史について考察したいと考える。