要旨
日本の著名作家である遠藤周作は、日本における信仰文学の先駆者であり、彼の作品には、生命、人生、社会、文化及び歴史にたいする深い思索と洞察が認められる。
『海と毒薬』は、戦時中に西部軍官司令部と九州大学医学部が米軍捕虜に対して行なった生体解剖事件を背景として書かれた。遠藤周作の文壇での地位を確定した里程標のような作品と思われている。遠藤作品における罪は、窃盗、虚偽、詐欺などの法律上の罪だけではなく、神不在という思想から形成される宗教上の罪である。長い間、日本は「恥の国」と考えられてきた。このような文化モデルは「恥」を強調し、「罪」をあまり重視しない。救済への需要の欠如により、―神の不在という精神状態に陥る。日本では、罪意識の欠如には普遍性がある。他人が知らない限り、悪事を悪事として認識しない考え方、或は悪事にすらならないという状態が発生する。このような観念は、最も恐るべきものであろう。『海と毒薬』を読めば読むほど、遠藤周作がこの小説を書く初志がわかるようになる。すなわち日本人の宗教観念よれば、神が絶対に存在するわけではなく、罪に対する認識が未熟かつ不完全である。
本論において、「生体解剖事件」が起こった原因の検討を通して、登場人物が自分が犯した罪に対する認識や、日本的な「罪と罰」などを検討し、日本人の精神世界を考察するものである。それにより更に、この事件の裏に隠れている日本人自身の問題と弱点を掘り出す所存である。
キーワード:日本、罪意識、罪と罰、神
目次
要旨
中文摘要
1. はじめに1
2. 遠藤周作について1
2.1略歴
2.2主要作品
2.3文学傾向及び追究主題
3.『海と毒薬』について2
3.1背景―戦時の九州帝国大学における生体解剖事件
3.2ストーリーの概要
3.3小説の主題
3.4日本現代文学史上における位置
4. 小説中における罪意識の表現と罪意識に対する理解5
4.1主要登場人物の性格及び心理の解析
4.1.1勝呂二郎の場合――徹底した能動性の欠如
4.1.2戸田剛の場合――無神論の悲劇
4.1.3その他の登場人物の場合
4.2 「海」と「毒薬」の象徴的意味
4.2.1「海」の意味―「人間の深層心理(無意識)」
4.2.2「毒薬」の意味―「人間の良心を麻痺する薬」
5.現代日本人の罪観念9
5.1 現代日本人の罪意識
5.2 日本的な罪意識とキリスト教的意識との違い
5.3日本人の罪観念の将来展望
6.結論11
7.参考文献13
8.謝辞