要旨:本稿では、国内外の先行研究を踏まえて、テキスト分析を通して、『飼育』における人間性への思考という角度から研究を展開する。まず、人間性の定義を論述する。次に、大江健三郎の人間性への思考はいかに『飼育』で展開したのかを二つの方面で明らかにした。最後に、何故人間性への思考を展開させたのかということを遡る。つまり、『飼育』を中心に、大江健三郎の人間性への思考はどのように作品で展開したのか、またその思考の根源は何かを研究してみたい。
キーワード:大江健三郎 人間性 「飼育」 実存主義 ヒューマニズム
本稿はまず大江健三郎の人間性への思考という角度から、『飼育』を分析し、どのように人間性への思考を展開したのかを探求した。そして、人間性への思考--大江文学の重要なテーマの根源を探し、時代の背景と教育、恩師渡辺一夫との出会い、サルトルと実存主義からの影響と三つの原因が明らかにした。
人間性への思考は『飼育』の中だけでなく、中後期の作品にも延長する印がある。大江文学において人間性への思考は重要な位置を占めていると筆者が考える。