要旨:谷崎潤一郎は強烈な色彩と華麗な作風で官能的耽美的な作品を書き、悪魔主義①とも称され、常に耽美派②の第一人者として活躍した。光輝ある肌、輝く唇、悧巧そうな眼、「若さ」と「美しさ」の溢れた肩など、女性の官能美は彼の作品にあふれていると言える。女性の身体のさまざまな部分に象徴して描かれる谷崎の官能美の中に、一番典型的な部分がないわけではない。それは「足」である。以下では、明治・大正・昭和と長きにわたったその文学的生涯の代表作に基づいて、各作品で女の足がどのように描かれているかを概括し、またその特別な役割を分析する。
本稿では、谷崎潤一郎の処女作とも出世作とも見なされている『刺青』、転換点として面目を一新する『痴人の愛』、晩年に最高の境界に達する『瘋癲老人日記』の三代を経る名作から美人の足の足跡をたどり、その足がどのように異彩を放ったのかを分析する。そして、谷崎なりの官能美が濃縮された女の足と彼の諸作品に潜む間柄を明らかにする。その上で、なぜ谷崎は女性の足に注目するのか、その原因について考察する。